パターソン。それは最高につまらない、そして最高に愛おしい映画。

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それは本当につまらない。

最近私の周りでは、結婚する友人がとても多くなってきました。半年に3個くらいは平均的に結婚式に参加しているのではないだろうか。

友人の結婚式ほどつまらないものはないですね。幸せそうな顔を作って、高い料金をかけて花とかをかざって、あたりさわりのない言葉をならべて、ビンゴゲームをする。これはつまらないですよ。

結婚するということは、毎日を無難に過ごすということですね。そして結婚式は「無難な私たちの無難なつまらない生活をよろしくお願いします」とお披露目をする場です。

おいおい。そんなに言うお前はいったいどんな生活をおくってけつかるんだ?と思っているでしょうか。

私は思います。つまらない生活こそが最高に愛おしく、毎日の風景こそが世界なのです。

パターソンという映画を見たでしょうか?これは最高につまらない映画です。

『パターソン』は、ひっそりとした物語で、主人公たちにドラマチックな緊張らしき出来事は一切ない。

物語の構造はシンプルであり、彼らの人生における7日間を追うだけだ。『パターソン』はディテールやバリエーション、日々のやりとりに内在する詩を賛美し、ダークでやたらとドラマチックな映画、あるいはアクション志向の作品に対する一種の解毒剤となることを意図している。

本作品は、ただ過ぎ去っていくのを眺める映画である。

例えば、忘れ去られた小さな街で機械式ゴンドラのように移動する公共バスの車窓から見える景色のように。

ジム・ジャームッシュ

言わずとしれたジム・ジャームッシュ監督です。ジム・ジャームッシュの映画はすべて見ましたが、数あるつまらないジム・ジャームッシュ映画の中でも、トップではないでしょうか。

この映画は「パターソン」という街に住む、「パターソン」という詩を愛する男の、超絶なんでもない日常の1週間を見ることができる映画です。

アクションなし、冒険なし、CGなし、それどころかストーリーもないようなものです。同じ時間に起き、同じ道を歩いて出勤し、同じルートで犬の散歩をし、同じバーで同じビールを飲む。パターソンはただ同じ毎日を過ごしています。

パターソンは詩人でもあります。しかしそれはただの趣味であり、仕事ではありません。そして彼が描く詩も特別なものではなく、ありふれた日常を切り取った詩です。

パターソンはバスの運転手をしています。バスに乗ると乗客の会話が聞こえてきます。そしてその会話で詩を書いたりします。

詩を書くことについて

映画の最後のほうで永瀬正敏が日本人役で少し出てきます。ジム・ジャームッシュ映画では定番ですね。

彼も詩人なのですが、二人の会話ではとても印象的なセリフを残します。

私は詩の翻訳をしません。詩を翻訳することはレインコートを着てシャワーを浴びるようなものです。

映画『パターソン』

ぞくぞくしませんか。いやーやられますね。

私は英語はできないのですが、外国の映画を吹き替えでは絶対見ません。それは、俳優の息遣いや会話の間、声の強弱などすべてを含めて映画だと感じているからです。
これをなんともキレイで粋な言葉であらわしたものが、このレインコートでシャワーの件だなと思いました。こんなふうに言葉を操れたらどんなにかっこいいことか。

なんとなく夏目漱石の世界のような村上春樹の世界のようなそんな空気も感じます。
ジム・ジャームッシュは日本文学的というか、侘び寂びのある銀閣寺みたいな映画を作りますね。日本人にファンが多いのもそういったところからかもしれません。私が大好きな映画が他にもたくさんあるので、またいつか記事にしたいです。

永瀬正敏の役は少し異質です。彼が出てくるシーンを見るとたぶん多くの人が違和感を感じると思います。私もすこし感じました。

あきらかに欧米の景色だったところに急にかっちりスーツ姿の純日本人が登場するのですから、ちょっとCGみたいにも見えます。パターソンを見た人はこの違和感わかりますよね?

このシーンはあえて道化師的な違和感を感じさせ、詩という一見無駄な行いそのものを記号的に表現しているのではないかと。とか言って私はそんな考察するタイプではないですし、考察ブログでもありません。

「私は詩を呼吸しています」

まさに、永瀬正敏さんが登場するセリフの中で、これは字幕の訳だと「詩は好きなんですか?」って聞かれて「詩は私の全てです」っていう日本語訳になっているんだけど、これ、元でなんて言っているかっていうと、「私は詩を呼吸しています」って言っているんですね。

TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(2017.9.2放送)

RHYMESTERの歌丸がいつかのラジオで上のように解説しています。

「私は詩を呼吸しています」

これはいろんな捉え方ができるなんとも渋いセリフですね。いつかこんなセリフが日常で言えるように準備しておきます。

この映画を見ると生活こそが世界だと感じられます。つまらない会話とつまらない毎日を見せられるのですが、その毎日が本当に愛おしく、すべてのシーンには無駄がありません。私はこんな映画を語り合える、そんな友人がいます。いつまでも大切にしたいものです。

アダム・ドライバーが好きだ

主演のアダム・ドライバーがいいですね。私は彼をスター・ウォーズで知りました。カイロ・レン役ですね。

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』ではめっちゃやばいやつで、でもダース・ベイダーのようなヴィランのカリスマにもなれない情けない役を本当にうまく演じていました。

その後パターソンを見ると本当に同じ俳優か!?と疑いました。でもこの特徴的な顔と、でかい体と超人的なスタイル(元軍人だそうです)は明らかにアダムでした。

彼の演技はゆっくりとしていて、自然体で笑顔が優しくて、本当に彼の一挙手一投足すべてがパターソンという人物を作りあげています。こんなにニッチで難しいツボをカバーした俳優は今までなかなかいなかったのではないでしょうか。

日本人でいうと鈴木亮平?うーん、しかしあの色気というか内側からにじみ出るミステリアスな大物感はなかなか日本人俳優では出せないですね。

まあとにかくいいです。この作品以降アダム・ドライバーのファンです。

そういえば、パターソンのアダム・ドライバーの写真がPOPEYEのいつかの映画特集の表紙にもなってましたね。

POPEYE的に言うと、
「シティボーイが映画を語るにはまずこれ!みんなもう見たよね?」

的な。そこまで俗な言い方ではなかったかもしれないですが、まあでもこの映画を表紙に選ぶところがやっぱりセンスいいですね。シティボーイになるなら、ジム・ジャームッシュ、そしてパターソンは絶対外せないでしょう。

冒頭であんなにつまらないと言っていたくせに、べた褒めじゃないかと思っていますか?

つまらないのはつまらないですが、このつまらない映画を「つまらない日常が美しくていいね」とか言い合える。そんな日常こそ私は愛おしいと思うのです。

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